だから池月第19号

池月バンザイ

 25年前、銘酒のモリヘイ(能美市)の蔵元見学会に参加して以来、「池月」の酒に惚れこみ今日まで「池月」一筋に飲み続けている、清水善郎さんにお話を聞くチャンスをいただいた。「今なお現役で仕事ができるのも『池月』のお蔭様やね」と言った艶やかな笑顔が印象的だった。

モリヘイを信じ

蔵元見学で確信

 銘酒のモリヘイ・森沼一郎社長は、平成9年の「池月」発売当初からのメンバーで、当然のこと、名の知らない「池月」の四苦八苦する。

 森社長は「うまい酒はたくさんあるが、味だけではない魅力を持っている『池月』を肌で感じてほしい」との思いから、蔵元見学会を企画・実施した。

 清水さんは「モリヘイが言うなら間違いないとは思っとったけど、手造りの現場の活気に触れてこれやと思うたね」と,以来、「池月」の普通酒や本醸造酒を好んで晩酌した。

心地いい甘味

年一日も欠かさず

 清水さんは無類の日本酒ファンで「心地いい甘味というのが『池月』には感じられる。難しいことはわからんけど、『池月』は自分の口に一番合うとるんやろうね」といい、10年前からは「池月うすにごり」に魅せられて、1年365日欠かすことなく夕飯の友として、一日の労を「池月うすにごり」で癒している。

 「一週間に一升瓶に一本やから、日に一合から多くても二合までで床に入る。朝早いしね。酒は百薬の長と、毎晩、おいしい薬を飲んどるようなもんやし、風ひとつ引いたこともないわ」と、81才には見えない艶やかさだ。

 また、おいしく飲む方法として、購入後すぐに一升瓶から小瓶に小分けして冷蔵保管している。

 ここにも清水さんの「池月」への愛情がうかがえる。

池月うすにごりのプロ

味の変化も楽しみ

 10年にわたり「池月うすにごり」を一日も欠かさず飲んでいる稀有な頼もしい清水さんは「毎年、微妙に味わいが違うのも楽しみやし、発売当初のフレッシュな味わいから秋口からは味に深みを帯びてくる旨みもまた格別で、酒の不思議さも知れて楽しいよ」と、まさに「池月うすにごり」のプロフェッショナルと言っても過言ではない。清水さんのようなファンを持つ「池月」は幸せ者だと思う。

基本に忠実な姿勢

すごい勉強家に安堵

 昨年、「池月を楽しむ会」(銘酒のモリヘイ主催)で川井杜氏の酒造りの講和に参加した。

 渾身の場で話す機会があった時の印象は「基本に忠実な酒造りの考え方がええなあと思った。凄い勉強家で人の話の聞ける素晴らしい若者で嬉しかったねぇ」と、川井杜氏の人柄に安心したようす。

 目標は、”100歳まで池月を飲む”ことと言って笑った。

81歳の現役職人

味わいの背景を感じ

 取材後、森社長から「清水さんは真面目で頼られたら断れない性格だから多くの人に好かれている。だから、81歳の今もなお第一線でご活躍されており、本当に尊敬している」と話してくれた。家庭の庭づくり、公園、街路樹など、人に温もりと癒しのお手伝いをする仕事に従事してきた清水さんだからこそ、手造り味わいの背景まで感じられるのだろうと思った。

川井氏のコラム⑥

テーマ:三段仕込み

 今回のコラムは、「仕込」作業です。

 仕込とは、出来上がった「酒母」に蒸米、麹、仕込水を加え、醪を完成させる工程のことです。よくテレビの番組で、3人くらいの蔵人がタンクを囲み、中身を櫂棒で突いている場面が放映されています。あれが仕込みの一場面です。ですが、テレビの場面だけ見てますと、タンク1本の仕込みを一回で終了しているように思います。実際の仕込みは、4日間かけ、作業を3回に分けて行います。

 4日間のうちの初日に、酒母、麹、蒸米、仕込水を投入する作業を「初添」と言います。

 2日目は、酵母の増殖を促すため丸1日、仕込作業を休みます。これを「踊り」と言います。

 3日目は初添の約倍の量の麹、蒸米、仕込水を投入します。この作業を「仲添」と言います。

 4日目はさらに仲添の倍の麹、蒸米、仕込水を投入します。これを「留添」と言います。これを均一にかき混ぜれば醪の完成です。

 この醪をアルコール発酵させ、「上漕」(粕と酒を分ける)したものが清酒となるのです。この3回に仕込を方法を「三段仕込」と言います。

 ではなぜわざわざ3回に分けて仕込むのか?これにはちゃんとした理由があります。酒母を入れた大きなタンクへ、1回で全量の麹、蒸米、仕込水を投入する「一段仕込」の方法では、せっかく酒母で大量に純粋培養された酵母の数が希釈され、それによって酵母の活動が弱まり雑菌の侵入を許してしまうことになるのです。これでは良い醪にはなりません。

 そこで仕込作業を4日に分け、酒母に原料を段階的に加え、着実にタンク内の酵母の数を薄めることなく増殖させることによって、健全な醪ができるのです。