だから池月第3号

酒造りは「ロマンと感謝」

 半世紀にわたり酒造りに携わってきた柳矢健清氏に、今年の酒造りを前にしていろんなお話を伺った。春夏の植林、秋冬の酒造りと共に自然と向き合い、”育む仕事”に携わる名匠は、誰よりも人を想い人への感謝を忘れない。


■酒造りのきっかけ

 29歳の冬、蔵人に欠員がでたので「少しの期間助けてほしい」と頼まれて輪島の中納酒造に入りました。初めてで何もわからず2か月ほどで終わりましたが、その後、7年間お世話になった後、矢舗酒造(珠洲)に4冬。

 鳥屋酒造には41歳の冬からだと思います。その間、5人の杜氏さんに仕えて、酒造りの深さを知り”ロマン”を感じました。

 鳥屋酒造で杜氏を任されるようになり杜氏職の難しさを知りました。酒を造るというより、人を使う方がとても難しかったです。特に、年上の方を使うというのは本当に気を使います。若さの至りでぶつかり辞められた方もいました。

■杜氏の一番の仕事

 それは何と言っても蔵人の健康管理です。蔵入り前には必ず健康診断を受けてきてもらいます。年々、蔵人の高齢化は避けられません。酒造りは早朝からの作業なので、特に寒い朝など起きてすぐ仕事に立たず熱いお茶を飲んでから向かうようにしています。それでもフラフラと青い顔してタンクに寄り添っていた人もあり、すぐ休憩室に運び休ませた時もありました。健康だからこそ、気を入れた仕事ができ、いい酒につながっていくと思います。

 たまに仕事が暇なときは、みんなを連れて七尾の海を見に行ったりして気分転換しています。私は海を見るのが大好きですので…

■対話して向き合う

 自分が選んだ道なので楽しくやるように、蔵の中に笑い声が聞こえる酒造りに心がけています。私は、春から秋の時期は植林(林業)をしています。樹を育てスルスルと真っ直ぐに伸びる樹を眺めて楽しんでいます。それでも、突風で倒れたりアクシデントもありますが、手をかけて育てていくのが何とも言えないほど楽しいです。

 酒造りも同じところがあるように思います。一本一本樹も違うように、お酒も同じ酵母や酒米を用いても違うんです。タンク一つ一つと”対話”しながら向き合っています。手のかかるほど作り甲斐は出ます。

■飲み飽きしない酒

 私は、飲み飽きしない旨い酒を造りたいと心がけていますが、なかなか皆様に”うまい”と言われるのは難しいです。ただ、池月を飲んでほっとしていただければ最高の喜びです。

 毎年、米の出来や気候と環境は微妙に違っていますが、長年の酒造りの”勘”を生かし、よりよいものを造ろうと努めています。

■料理・さけ・人

 第一に、料理を食べながら飲む酒、飲める酒はいい酒だと思っています。(空酒はよくない)飲んで味を感じるのが日本酒です。料理と共に、親しき人と話しながら楽しくいくらでも飲める酒を造りたいです。

■感謝を胸に

 池月ファンの皆様、酒屋さんの皆様にはいつも有難く感謝しております。皆様のおかげさまで池月の酒造りができます。今年もまた、蔵人と共に感謝を胸に1日1日楽しく心を込めて酒造りに励みます。

私と池月

「東山みずほ」 川 きよみ さん

金沢氏東山1の26の7  平成21年4月16日開店


■地元を伝えたい■

 6年前、お店のオープンの機を得て、まず石川県産の良質な食材を伝えたくお米はコシヒカリ、夢ごごち、ミルキークイーン、加賀野菜、大野醤油、味噌をはじめ卵、塩、地元作家の器など、すべて地元にこだわりました。もちろん、お酒も石川県にこだわりたくて伸栄館の瀬戸さんに相談したところ、いの一番で「池月」を紹介してくださいました。当時、聞きなれない銘柄だったことと、酒蔵というところにも興味があって瀬戸さんにお願いして蔵元を訪ねた。

■すべてが新鮮■

 早朝5時に蔵元のある鳥屋町に到着。柳矢杜氏さんの案内で蔵内に入る。一歩足を踏み入れた瞬間、お酒のいい香りに満たされた蔵内では黙々と作業する蔵人さんの姿を見入ってしまったほど、熱気に包まれていました。

 洗米・麹・醪発酵のすべてが人の手によって丁寧に造られていることの感動と安ど感は今も覚えています。柳矢杜氏さんから蒸米を差し出され「味見してみて」と食べさせてもらったり、醪の櫂入れ、フネから搾ったばかりのお酒の試飲、また朝食までご一緒させて頂いたりと、初めての体験ばかりだったが本当にいい体験をさせてくださりました。

■人間力に魅せられて■

 作業する蔵人に向かって笑顔いっぱいに「この酒が東山に出るんや、きばれや」と声をかけてくれたことが本当に嬉しく、この蔵元を、池月を伝えたいと素直に思いました。

 池月の良さを聞かれれば、迷わず柳矢杜氏さんをはじめ造り手さんの人間力がとても魅力的だと言いたい。頑固な職人でありながら、温かみや優しさが池月には溢れています。この日1日で好きになりました。以降、スタッフを順番に蔵見学させています。

■柳矢杜氏を伝えたい

 石川や金沢をお伝えする意味でも何か力になりたい。食材や料理にこだわりおもてなしするだけでは印象も薄い。それらには、すべて人が介して成り立っていることをお伝えすることでお客様の喜びにつなげられたらと思っています。

 お酒をお勧めするときは、池月で経験したことや柳矢杜氏さんの話をしています。話したくなる人、かっこいい人。みずほでは、まず柳矢杜氏さんのつくる酒を飲んでほしい。

日本酒豆知識③

 和醸良酒とは、、、①和は良酒を醸す②良酒は和を醸す の2つの意味があります。

 

 前者は、酒造りに携わる人、酒を瓶詰めする人、酒を販売する人、そして酒を飲む人それぞれの精神を大切にしてこそ、良酒が生まれるということです。後者は、良酒を飲めば、人間関係も丸くなり和を醸すということです。

 この言葉は、酒造りだけに当てはまるものではありません。人間はんは自分一人で生きているているわけではなく,自分を支えてくれる多くの人や事柄に「和」をもって大切に生きていきたい。

 池月には、そんな「和」がつながり広がっています。親しき仲間と共に、池月を酌み交わし蔵元を訪れて「和」を体感してみてはどうでしょうか。

 ちなみに、「北陸町の酒屋の会」は、この和醸良酒を合言葉に結成されたものです。蔵元では本格的な酒造りの季節を迎えました。一般的には、お酒は酒米(お酒専用のお米)が収穫される初秋から雪解けの春までの半年間にかけて造られます。「池月」の醸造元・鳥屋酒造もまた、10月に入り蔵入り準備をはじめ、昨年にも勝るとも劣らない”和醸良酒”を目指して蔵元一同は気合いっぱいに汗を流しています。