だから池月第8号

「池月」誕生秘話

~蔵元と共に歩む~ その弐


〇金太郎あめからの脱却

オリジナリティが課題

 平成4年、日本酒好きの酒屋が集まって「石川和醸良酒の会」を発足し、日本酒や商売について情報交換し合っていた。当時の酒屋は、ビールを主力に大手メーカーの酒を販売する”金太郎あめ”のような形態がほとんどで、自ずと価格く競争は生じる仕組みの中、町の酒屋は試行錯誤していた。瀬戸さんは「当初からオリジナル商品を作りたいとの話し合いをしていました」と振り返る。同5年初冬、石川県内の蔵元の勉強を兼ねて石川の酒を主に”大唎酒会”を催すことを決めた。

〇県内全蔵元を訪問

銘酒に思い馳せる

 当時、石川県では38の蔵元が醸造していた。酒会の出品酒を仕入れるため、メンバーは能登から加賀まで手分けして全蔵元を訪問する。能登を担当した瀬戸さんからは「能登はほとんどが小さな蔵元で、その実情は思っていた以上に危機的な状況にあることを肌で感じた。しかし、驚くほど良質な酒が多く、すぐにでも取引したいと思ったほど」といい、鳥屋酒造の酒に出会う。酒会は大盛況で終えたものの、それ以上に西本さんは「正直言って、鳥屋酒造さんの酒が頭から離れなかった」と思いを馳せていく。

〇みなもの誕生へ

好調な滑り出しも

 翌6年3月、西本さんは鳥屋酒造を訪れ、蔵内見学と酒を試飲する。「その時は普通酒から大吟醸酒まできかせていただいたが、どの酒も素晴らしいものだった」と思った以上の酒質に感動する。その時は「石川和醸良酒の会」の話をして帰宅。その後、メンバーと鳥屋酒造について何度も話し合いを重ねていく。

 結果、同年10月、石川和醸良酒の会のオリジナルブランド「吟醸みなもにうかぶ月」(大吟醸)として6軒の酒屋で販売することにこぎ着けた。価格は一升瓶で3,000円(当時)。450本の大吟醸酒は大好評で2か月足らずで完売し、上々の滑り出しだった。翌年には約4倍の1,700本を年内に完売しブランドとして成り立つ勢いを感じていた。

〇点から面への課題

壁に立ち尽くす

 しかし、大吟醸酒は杜氏や蔵元が精魂傾けて醸す酒で量産は難しく価格も高い。ゆえに面として広がらず、蔵元・酒屋の大黒柱にはなりえない。気軽に買える価格で品質が良くてうまい酒を提供しなければ共生は不可能と一つ目の大きな壁、課題に頭を悩ます。「手軽に変えてうまい酒を提供し消費者に伝えるのが、日本酒に惚れてうまい酒を紹介しているわれわれ酒屋の役割だと気づき模索が始まったのです」と西本さんが思い描いていた理想の酒屋像のギャップに思い悩んだ。

〇新潟県での学びを

谷澤さんとの再会

 まず、何から始めればいいのか。試行錯誤の毎日だったころに、当時、新潟県で蔵元と酒屋が共に手を携えてブランド作りを試みていたことを知り、迷わず飛んで行った。西本さん夫婦と故・三津守一夫さん(みつもり酒店)、舟崎文雄さん(エスポアおおさき)の4人で長岡の酒屋を訪問する。そこで「新潟に来なくても金沢の限定流通に詳しい醸会タイムス社の谷澤記者さんがいらっしゃるからその方によく聞いた方がいい」と教えてもらい、以前から面識があった西本さんは早速、谷澤さんを訪れた。当時のことを谷澤さんは「緊迫感が漂っていて、あんな西本さんは見たことがなかった」というように西本さんの真剣さが伝わったという。その日は夜遅くまでいろいろ話し合った。

〇覚悟と責任だけ

やりがいもあって

 谷澤さんは「自分の思いを形にするのはたやすいが、それを継続するのは難しい」といい、続けて「同じ気持ちで行動する仲間作りはもっと難しい」と、真剣であるがゆえに厳しく話した。それには「覚悟と責任」の2つを挙げられたと西本さん。具体的には①蔵元のブランドとして立ち上げる②蔵元の支えとなる販売量の確保③販売者として責任を持つこと④恒久的な付き合いをする・・・など、生半可な取り組みでは互いにいい結果は生まれないし意味をなさないことに気づかされた。しかし西本さんは「やりがいとして受け止めた」と、前だけ見つめることに決めた次号に続く。 


私と池月

魚々(ぼうぼう) 操川和弘 氏

             石川県羽咋市川原町エ161番地6 2000年創業

〇オープン当初から

  「池月」は、地元の宮谷酒店さんの熱心な薦めと酒質が気に入ってオープン当初から扱わせていただいております。また鳥屋酒造さんは車で30分の距離なので「地元酒」という親近感もあり身近な酒という印象です。今ではお客様も応援してくださっております。

 お酒は、本醸造酒とみなもにうかぶ月をメインに、本醸造生貯蔵酒、純米吟醸「一青」、うすにごりなど、季節に合わせた料理と共に提供させていただいております。それぞれ個性がありながらも、一貫した”池月らしさ”があって大好きな酒の一つです。

〇安心できる蔵元さん

 当店は、お造りなどの魚料理を中心とした和食がメインですが、「池月」との相性がとてもいいように思います。派手さはないですが、しっかりした旨味がありながらも料理の邪魔にならないという酒ですね。現に、リピーターが本当に多いですよ。長年「池月」の酒を見てきましたが、扱い当初から変わらず、料理や人に寄り添うような安心感があります。安心してお勧めできる蔵元さんです。

〇もっと能登をアピール

 地元のお客様はもちろん、能登への長期出張で来られている方や、他県の方へのおもてなしの接待としてご利用くださる方も多くおられます。それらの方々に能登をアピールすべく、例えば「池月」の能登版ラベルがあってもいいように思います。

 昨年の北陸新幹線の効果で観光客も増加しておりますので、能登の美味しい料理とお酒を、今以上に楽しんでもらいたいと思っております。

〇宮谷酒店から一言

 「魚々」さんは、鮮魚店を経営する傍ら「より新鮮な魚を食してほしい」と居酒屋をオープンした。その日に水揚げされた新鮮な魚介類が食べられるとあって、地元では人気のお店です。特に、看板料理にもなっている「のどぐろ」の塩焼きは天下一品で、「のどぐろ」を目当てに遠方からお越しくださるお客様も大勢おられます。

 「池月」のよき理解者であり、池月を楽しむ会「秋の宴」も開催させてもらっております。是非とも、「魚々」に足を運んで、能登の旬を池月と共に味わいに来てください。